ひき逃げされて
犯人はまだみつかっていない。
社会はそれでも働けという。
十分休んだか?そうかもしれない。
傷を癒やす時間はもらえたか?
そうかもしれない。
何が問題か。
事故で腕を失い、大好きな、楽器ができなくなり1キロも持てないので子供をもつこともあきらめないといけなくなった。
私を轢いたあの女性はどうか?
今もどこかで笑っているだろう。
私の失ったものはかえってこない。嘆いても。
六回の手術をして、
制限の中で生きていかなければなない。
しかし、ここであの轢いた犯人の自転車にのった女性が失ったものもある。
それは、良心だ。
私と目があってそのまま逃げたあの女性は、あの瞬間完全に良心を失い、失った心は二度ともとには戻らない。
彼女の失った良心はかけ続け、永遠に彼女自身を、貪るだろう。
人間は「自分が悪い」とはいえないものだ。
肯定的に自分を捉え、少しでも自分を優位に立たせ、相手を支配したくなるのだ。
それが戦争の始まりだと思うよ。
自分が悪かった、悪かったことをきちんと謝れる、そういった環境を社会が作っていかなくてはならない。
どんなに相手に酷いことをされたり、言われても同じ土俵にたってはいけない。
そうしなければ悪魔が囁いて、薬漬けにしてしまうからだ。
いちど侵された人間は、決してそこから抜け出せない。
電車の中、街の中、車の公道、
悪魔に侵された人間が二人に一人は存在している。
この世は悪魔の圧倒的勝利である。
貪ったほうが価値であり、
意見を強引に押し通したほうが正しいとされる。
だけど、それではいけない。
正義の心は決して必ずしも正しいとはいえない。
この不条理の世界と戦えば戦うほど
自分の息の根を止めることとなり、
その思考をストップしなければ、
制圧をかけたい人たちが押し寄せてはやってくる。そんな世界でどうやって生き抜くか?
そこから逃げる場所はあるのか。
ひき逃げした彼女が悪魔の心を振り払ってくれる時を私は待っている。
- 作者: マークトウェイン,Mark Twain,中野好夫
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